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SL北びわこ号

 音響学者の田中正平は明治中期に純正調オルガンを発明してドイツ皇帝の勅書を賜ったことで知られる▼その田中は後年、日本初の私鉄の日本鉄道で汽車課長を務めた際、沿線住民に平身低頭した経験を持つ▼日本鉄道を走った米国製の蒸気機関車(SL)の汽笛は、複数の音が和音となって出る「重音」の方式をとっていた。底力ある響きだったが、住民から「気味悪い」「赤ん坊が夜泣きする」と苦情が殺到した。これに恐縮して田中は汽笛を単音に改めた(堀内敬三「機関車随想」)▼車両が変われば、汽笛も違う音色を聞かせるのだろう。滋賀県北部のJR北陸線米原-木ノ本駅間を走る観光列車「SL北びわこ号」で「ポニー」の愛称を持つC56形と交代して「デゴイチ」として知られるD51形が7月から登場する。両方とも京都市下京区の京都鉄道博物館に展示されてファンになじみ深い▼日本の動脈を担って明治の殖産興業から戦後の復興と成長までを支えたSLは、義経や弁慶をはじめC57形の愛称「貴婦人」など人にまつわる名前を持つ。煙を上げて坂を登る姿は国づくりに汗を流した幾多の先人に重なる▼多大な功績を持つSLだが、役目はまだ終わらない。ポニーに続いて湖北路に響くデゴイチの汽笛が地域おこしへの一声となればと願う。

[京都新聞 2018年06月23日掲載]

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