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美術作家 山本雄教氏

一円玉をこすり、立ち上げる世界

はすかいに社会見つめ

一円玉についた手あかの濃淡で模様が出る作品と、硬貨にまみれる山本雄教(京都市北区の共同アトリエ)
一円玉についた手あかの濃淡で模様が出る作品と、硬貨にまみれる山本雄教(京都市北区の共同アトリエ)

 絵の男はモザイクだ。近づくと、モザイクのドットは一円玉だと分かる。一円玉をフロッタージュ(こすりだし)し、鉛筆の濃淡と筆圧で男の形を作り出している。計816個、816円分の男、山本雄教は「だいたい『最低賃金の時給』に近いです」という。「時給」が下がれば、像はもっとぼやけるだろう。人間とお金の価値が交錯する。

 卒業制作では、同様に一円玉で自画像を作った。タイトルは「翻弄(ほんろう)される男」。社会に出る「山本」を脇でにやにやと、また悲しげに見つめるのは一円玉でできた夏目漱石と福沢諭吉だ。お金をモチーフに使うのは、社会のありようを映し出すから。「フロッタージュはある意味で抜け殻」。モナリザは「286円」で描いた。ミロのヴィーナスは「431円」で。「リーズナブルに描ける。お金の話題が多い美術界を皮肉りたかった」。なんでも数字やお金で置き換えられる時世をくすぐる。

「816円の男」 2017年
「816円の男」 2017年

 「皮肉っぽい面が小さい時からあるのかも」。はすかいに、社会を見つめる。日本画出身だが、岩絵の具にこだわらず、鉛筆やボールペン、多様な画材、素材を用いる。最小単位が積み重なって別の形態になる表現の原点は、京都駅のエスカレーターだ。無数の人々の往来が見えた。人間がベルトコンベヤーで運ばれているようだった。1人、1円硬貨、1粒の米。「単位、ある意味凡庸なもの、日頃目にしているものほど、見え方が変わる、リアリティーがある」。線描の米粒の重なりで「米国」の文字を浮かび上がらせ、米粒と梅干しで日の丸を描く。人を食ったような、軽やかな風刺を添える。

「Blue+mountain」 2013年
「Blue+mountain」 2013年

 もう一つ、山本らしい「画材」がある。ブルーシートだ。ある日、工事中のビルに青いシートがかかっていた。「青空の日で、すごくきれいだった」。さらに歩いて行くと、ブルーシートがホームレスの人の住居になっていた。次に黄色いテープで青いシートをくくった謎のオブジェと出合った。「なんやこれ」。シートの多様な側面。「きれいに見えたけど、自然災害時は負の印象。また、何かを隠すこともある」。極めて日本的な品だ。続(しょく)「京都日本画新展」で、ブルーシートに金箔(きんぱく)を貼って富士を描いた大作を出した。繊細優美な画が並ぶ中で、異彩を放った。「描かれた富士のイメージは薄っぺらく感じることがある」。現代の消費される表象として、「シニカルとポジティブを行ったり来たりしながら作った」。

 最新作は、これまたお金。といっても目に見えない。仮想通貨だ。流出事件前から目を付けていた。ビットコインのマークを一円玉でこすりだす。「物質はないけど、存在している。実感がない。そもそもお金自体が信仰みたい。人間の想像力で成り立っている」

 「一枚の葉っぱが手に入ったら、宇宙全体が手に入ります」。日本画家小倉遊亀は師・安田靫彦にそう諭された。一円玉のミクロは、不安や希望を含んだマクロな世界につながる。山本は「日常の中で見落としがちなささいなものから、そんな広がりを見つけていきたい」。手触りがなく、デジタルで、一つ一つが見えにくい時代を、少し斜めから眺め、こすり、あぶりだす。

やまもと・ゆうきょう

 1988年、京都生まれ。成安造形大日本画クラス卒業、京都造形芸術大大学院修了。府美術工芸新鋭展2012公募部門大賞、14年TERRADA ART AWARD優秀賞、17年ファインアート・ユニバーシアードU-35展優秀賞(つくば美術館)。京都市在住。

【2018年03月24日掲載】