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築100年を超える小島さんの自宅。四季折々で魅せる表情や空気が違い、家が「生きている」という感覚が満ちる(京都市中京区=撮影・吉田清貴) |
年配女性向けの雑誌には、京町家を借りて住んでいる東京の文化人の自宅公開、という記事が見かけられる。だが、「すてきな和の暮らし」などというキャッチコピーの下に掲載された「町家」は、玄関までに広い庭が続いていたり、茶室があったりする豪華な木造建築なのだ。これって、町家と違うやん。
京都に観光でやって来る一部の人々は、古い木造建築ならすべて町家だと思っているらしい。また、現代人が快適に過ごせるよう内側を改造した「町家風」建築が、週末の不動産物件の広告をにぎわせてもいる。「町家」は京都ブームの目玉なのだ。だが、大津市にも町家は残っている。京町家は本当に特殊な存在なのだろうか。
町家の本来の姿が見たくて、京町家の保存に取り組んでいる中京区の小島邸を訪れた。小島冨佐江さんは、京町家再生研究会の事務局長を務めるとともに、建築学の視点から京町家を再生する試みを行っている。
「町家の基本は、豊臣秀吉のころにできたんです」と小島さん。ただし、現存するのはほとんどが明治以降のものだ。町家の特徴の一つは、必ず通りに面していることである。狭い間口と対照的に、奥行きは六十メートルにも及ぶ。通りに入り口があるから、たいていの町家は表の間で商売を行っていた。そして、奥に家族の生活空間がある。これが第二の特徴である。
住んでこそ保たれる住民遺産
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明治期に戻された町家でカフェと宿を開いたケース。観光客だけでなく、近所の人も喫茶の利用に訪れる(京都市上京区・布屋) |
最近、町家を改造してカフェやレストランにする店舗が増えていることについて意見をこうと「人がまったく住んでいない時間があるのは、火事のことなど考えるとこわい」という答え。町家の構造を把握していない改造を施した店も多いという。
小島さんが推薦してくれた、まさに職住兼ねた町家で宿とカフェを営業している上京区の「布屋」にも足を運ぶ。この家で生まれ育った布澤利夫さん(54)は、近代的に改造された町家を、京町家改修の専門家に依頼して、明治の半ばに建てられた当初の形に戻したそうだ。全国からリピーターの宿泊客がやってきては、町家体験を楽しむという。
京町家保存のためには、徹底した火災予防と、人が住まないゆえの荒廃を防ぐことが急務である。積極的に人が居住することで町家は自然と保存されるのだ。そのためには市が経済的な援助を行ったり、市民の意識を高めることが必要だと感じた。
大津の町家
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大津の町家。うなぎのねどこのように細長いおくどさんが続く(大津市京町3丁目) |
あまり観光客には知られていないが、大津市にも町家は相当数残っている。大津祭の曳山(ひきやま)を出す町の一つにある町家を見せていただいたところ、京町家の造りとほとんど変わりないのに驚いた。京町家より、やや二階が広いのは、祭の際に二階に客を通すからだという。
町家といえば京都ばかりが喧伝(けんでん)されるが、落ち着いた大津の町家を見て回るのは通向きの楽しみになりうる。ただし、保存という点については大津市は始まったばかり。町を歩いてみると、風情ある町家の両隣は取り壊され、寒々とした空間が広がっていたのが残念だった。
(甲南大教授)=おわり
貴子のここも注目!・大津百町館
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「大津百町館」 |
私自身、古い木造家屋で育ったので、正直言って、町家暮らしには辛い面もある。冬は暖房が行き渡らないし、手入れを怠ればすぐに家が老化する。都市型集合住宅なので、ご近所付き合いが苦手な人は大変だ。だが、一度町家に入ってみたいという人にお勧めなのが、大津市の「大津百町館」=メモ参照。約百年前の町家が保存されている。
メモ
【大津百町館】 大津市中央1丁目のナカマチ商店街内にある築100年の旧民家を再利用している=写真。家のなかには、かまどがそのまま残るおくどさんや、白壁に映える虫籠(むしこ)窓、大津間(おおつま)と呼ばれる大広間などが残され、昔ながらの暮らしの様子を見学できる。不定休。問い合わせはTEL077(527)3636へ。
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