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湖東病院事件再審決定 危うさはらむ自白偏重

報道部 江夏順平
再審開始が認められ、弁護士と並んで笑顔を見せる西山さん(中央)=20日午後2時6分、大阪市・大阪高裁前
再審開始が認められ、弁護士と並んで笑顔を見せる西山さん(中央)=20日午後2時6分、大阪市・大阪高裁前

 「警察や検察が悪いとは思わない。うその自白をしてしまった自分が情けない」。2003年に看護助手が勤務先の病院で患者の人工呼吸器のチューブを外して死亡させたとされる事件。殺人罪で服役した西山美香さん(38)は、昨年12月に大阪高裁の再審開始決定が出た後も自責の念を抱いている。無実を訴える西山さんはなぜ自白し、有罪となったのか。背景の一つに捜査機関や裁判所の「自白偏重」がある。

 「取り調べた刑事に好意を抱き、虚偽の自白をした」。西山さんは公判でこう主張した。確定判決は主張を一蹴し、ほぼ唯一の証拠である捜査段階の自白の信用性を認め有罪とした。

 西山さんは当初、患者の異変を見過ごした業務上過失致死容疑で任意の取り調べを受け「(異変を示す)人工呼吸器のアラームが鳴ったはずだ」と若い男性刑事に詰問された。鳴ったと認めると刑事は一変して優しくなり、西山さんは好意を感じたという。

 西山さんの言う「好意」には、恋愛感情だけでなく、取り調べを支配する相手への依存があったのではないか。以前に弁護側の依頼で西山さんの性格や供述を分析した大谷大の脇中洋教授(法心理学)は、西山さんの他者に迎合しやすい傾向を挙げ「刑事に頼り、すがるような関係だったのでは」とみる。

 最初「アラームは鳴っていなかった」と供述した西山さんは厳しく問い詰めてくる刑事を前に、自分に不利な供述をしてでも対立状況を逃れようとした。刑事は認める供述をすれば優しくなり、否認すると怒声や詰問で撤回を求めたという。西山さんは「被害者の写真を並べられ『これを見て責任を感じないのか』と言われた」と振り返る。刑事の優しさを頼るように場当たり的に重ねた供述の一つに「チューブを外した」があり、殺人事件に発展した。

 逮捕から起訴までの21日間は留置場で生活を警察の監督下に置かれ取り調べが続いた。弁護士は刑事以上の関係を築けず、両親は接見禁止で会えない。西山さんは刑事への「好意」を維持し、数々の供述調書が生まれた。起訴後に両親と面会した西山さんは刑事と両親の間で気持ちが揺れ、自傷行為に及ぶ。刑事は起訴後も拘置所を訪れ、自白を維持するよう説いたという。

 警察が自白を重視するのは、裁判所が捜査段階の供述の信用性を比較的簡単に認めてきたことと表裏一体だ。数々の事件で供述の分析を行い「自白の心理学」などの著書がある奈良女子大の浜田寿美男名誉教授は「供述調書の中で本人が語った内容は半分以下ということもある」と指摘。「公判に出る供述調書は有罪方向で編集された結果でしかない。裁判所が編集の過程も含めて信用性を判断すれば、警察も捜査手法を改めるはずだ」と話す。

 脇中教授による西山さんの供述鑑定は、取り調べた刑事との関係性の中で、体験に基づく供述から虚偽の供述に変遷したと結論づけた。大阪高裁の再審開始決定も同様に、供述の変遷や不自然な点に着目。取調官により誘導され迎合した可能性に言及し、信用性に疑いの目を向けた。

 検察は再審開始決定を不服とし、最高裁に特別抗告した。信用性に欠ける危うい自白を生み、見抜けなかった捜査機関や裁判所の体質が変わらない限り、冤罪(えんざい)はこれからも起こりうるだろう。

[京都新聞 2018年4月11日掲載]

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