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美術家 小林椋さん

実験観察の中から立ち上げる

交差する次元と構造 不思議な身体感覚

実験音楽を愛聴し、音楽ユニットも組む小林椋。京都は面白い店が多いという(京都市中京区・パララックスレコード)
実験音楽を愛聴し、音楽ユニットも組む小林椋。京都は面白い店が多いという(京都市中京区・パララックスレコード)

不思議な空間だった。液晶ディスプレー、波形やギザギザ形のカラフルな木板、小型カメラが点在し、それらを組み合わせた装置がそれぞれ、自律的に運動している。左右に動く板の波形を捉えたカメラの映像は、うねうねと揺れる液体みたいだ。それを映すモニター自体、お辞儀するように前後に傾く。映像が切り替わるとき、なぜか手前の青いギザギザ板が回転する。一方で、別の立体は、映像とは全く無関係にたたずんでいたりする。

 この形があの画面で、あの動きは連動しているのか-。現象が連鎖する。しかし、時に反応し合っているようでつながってなくて、身体感覚を軽く裏切られる。動くモニターは映像から「もの」へと変化。3次元の木の板は2次元の映像に変換されると、単なる図形となって木という素材感は失われる。平面と立体が結びついたり、ずれたり、交錯する。そして、鑑賞者はその構造や関係を俯瞰(ふかん)しようとする視点に誘われ、世界全体は暴かれていく。

「プールの輪にワニ」 2018年
「プールの輪にワニ」 2018年

 今月、小林椋がギャラリー16(京都市東山区)で発表した、動きとオブジェによるインスタレーション作品。映像世界と現実空間が交差しながら、そのどちらにも地に足ついていない世界が見えてくる。小林は「カメラやモニターを動かすことで奇妙な身体感覚が生まれる。イメージの感覚、動きの感覚をちょっと変な気持ちにさせています」と語る。

7月10~21日に開かれた小林椋展「ローのためのパス」(京都市東山区・ギャラリー16)
7月10~21日に開かれた小林椋展「ローのためのパス」(京都市東山区・ギャラリー16)

 一風変わった小学生だった。実家近くにある東京大のゴミ捨て場に廃棄されていた実験装置や研究器具を拾い集めてコレクションした。「用途が分からないけど、コンセントに差すとなんか動きだす。装置の機構を見て、動き方が分かってくる。自分の作品は、この用途の分からなさ、分からないものにどう触れるかということに影響を受けている」。多摩美術大ではサウンドアートから出発したが、行き詰まった。そこで、動くものに付随する生の音へ関心が向き、現在のキネティックな動く作品になっていった。自らの作品が、美術作品としてどう見られるか探るため、昨年、京都市立芸術大大学院の彫刻専攻に入学した。

 創造の原点は観察だ。制作と並行して活動する実験音楽ユニットでは、回転するモーターに、ひたすら養生テープを巻きつけるというパフォーマンスを行う。「ビッビビッという音がする。それだけ。でもテープのメーカーや持ち方で音が変わる。そういうことを観察する。実験を重ねて、ものの挙動や現れが分かる。そこから作品ができてくるんです」という。

 理論からではなく、実験観察の中から作品を立ち上げる。一見用途の分からないものも多様な要素とつながりながら、取り巻く世界を少しずつ変えていく。

こばやし・むく

 1992年、東京都生まれ。多摩美術大大学院修了。現在、京都市立芸術大大学院在籍。2017年、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品選出。8月25日~9月9日、ギャラリーN(名古屋市千種区)で個展。科学という営みにあるフィクション性をモチーフにする。

【2018年07月28日掲載】