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現代美術家 天牛美矢子さん

日常に潜む悲しみ基に物語紡ぐ

革や布、受け入れがたさに近づく

天牛美矢子さん
さまざまな獣の革、角が並ぶ革材料店で素材を見つける。「革を使うのは、体に一番近くて、人間の文化と深いつながりをもった素材。メッセージ性が強いから」(京都市下京区・革工房GYPSY)=撮影・田村泰雅

 革、布、糸、ロープ、毛皮、鏡、ビーズ、軍服、アップリケ。

 天牛美矢子が用いる素材は、まがまがしく、カラフルで、なまめかしく、親密だ。羊の毛皮にシルクスクリーンやミラー刺繍(ししゅう)を施し、ぬいぐるみの上に絵を描き、きれを細く裂き、アップリケを縫い付ける。そこに姿を現すのは女の顔をした鳥、全身毛に覆われた悪魔や野生児のキャラクターたちだ。ちょっと不気味だけど、どこか寂しげで親しみ深い。

「R・I・P」 2017年
「R・I・P」 2017年

 それらは、生々しい革の肌合い、ごわついた繊維の質感、網膜を差す光の刺激といった身体感覚とかすかな記憶を宿す素材を通じ、幻想のような物語を紡ぎ始める。

 モチーフは神話や伝説、記憶。ベースを流れるのは悲しみ。日常の中で拾われず、忘れ去られた悲しみだ。「傷ついた存在を慰めたい。キャラは哀れで虐げられた存在など、誰もがもちうる傷ついた過去(幼年性)がシンボルめいたもの、魂の象徴となって現れる」。物語はファンタジーに逃げ込むためにあるのではない。「よりよく世界を生きるため、現実がより見えるようになるためではないか。受け止めがたいことを理解し、受け入れがたいことに近づくために物語を想像しています」

「O市は燃えていた」 2018年 Photo:Ujin Matsuo
「O市は燃えていた」 2018年 Photo:Ujin Matsuo

 実家は1907(明治40)年に創業した大阪の古書店。育った環境がもたらした影響は大きい。幼い頃、花や意匠の意味を解説するサイン・シンボル辞典が好きで、ギリシャ神話など物語の世界に入り込んだ。支店長を務める今も、古書に挟まれた手紙、書き込みに触発される。

 悲しみや傷ついた過去とつながるものとして「戦争」が大きなテーマにある。祖父母は満州で終戦を迎え、命からがら引き揚げた。大阪大空襲で店も焼けた。「ほんの70年前のことなのに、なかったかのようになっていることへの違和感がある。日常の下に潜んでいる本当にあったこと、身近なところにアンテナを張っていたい」。羊の毛皮の作品「O市は燃えていた」は、爆撃機がきらきらと爆弾を都市に落とし悪魔や恐竜が幻影のように現れる。ペーパービーズの作品は、戦時中の書籍や映画パンフを細く切って丸めたものだ。

 「ふだん古本を触っていると、70年前って昨日みたいに感じる。大正時代の本や雑誌に載っているマダムのための献立やファッションはすごくモダンだし、紙もきれい。手の届く過去。紙質が粗くなるのは昭和15、16年ぐらいから。化粧広告も銃後の美顔クリームみたいになって、一気に思考回路が変わるのが不思議」という。

 時代の空気、手触りに敏感だ。「今のご時世、一部のきな臭ささもあり、なんとなく『おやおや?』という感じがある。いつどうなるか分からない。危機感がある。それを私が忘れないために作る。親しみやすい素材なので、近寄って、そしてあれって思ってほしい。人の思考、見ている世界を広げたい」

てんぎゅう・みやこ

 1989年生まれ。京都市立芸術大美術研究科修士課程修了。3月30日~5月4日、COHJU contemporary art(中京区丸太町通寺町西入ル)で個展「悲しき星座」を開く。悲劇の主人公も星座として夜空へ引き上げられたら救われるかのような不条理を主題に、新しい星座を作る。

【2019年03月23日掲載】