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町屋から学ぶ 「適材適所」の奥深さ

約四間(7メートル50センチ)の長さの松の梁がある火袋(京都市東山区松原通大和大路二丁目「貴匠桜」)
 「木林学ことはじめ」を京都新聞市民版に掲載して以来、四年ぶりです。今回は、素材である「木」だけでなく、木造建築、意匠、森林などへ視野を広げて、読者の皆さんとともに学んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 私のような木を商う者にとって、町家は、伝統的工法を見直すとともに、適材適所という言葉の通り、木材の特徴をいかした日本建築の奥深さを思い知らされる存在。たとえば、写真にある、一九二三(大正十二)年築の京都市東山区の町家を見てみましょう。
 醤油(しょうゆ)屋を営んでいた伊藤喜商店は、この界わいの代表的な老舗でした。戦前に、店主がヨーロッパ旅行に出かけるなど「大店」として知られていました。たたずまいは、一階と二階が同じくらいの高さに作られた「総二階」と呼ばれる形式です。このほど、外観などほとんど昔のままで、料理店に改装されました。
 職住一体の町家は、必ず「店の間」があり、「通り庭」という表と裏をつなぐ土間があります。通り庭の、おくどさんがある部分を「走り庭」、おくどさんの煙や火の粉が上がっても大丈夫といわんばかりの吹き抜けの空間を「火袋」と言います。火袋は木組みがおもしろく、強度とねばりのある松の梁(はり)が空間を横ぎり、家の中心である六寸五分の檜(ひのき)の大黒柱が、天に吸い込まれるように、存在を主張しています。柱は、山にある木々と同じように天に向かって据えるのが、基本中の基本。京の町家は、ご禁制の影響もあり、ほとんどが栂普請なのですが、この大店は、ほとんど檜普請でした。
格子が美しい外観を維持して改装された新しい店
1922(大正11)年の上棟式の様子(伊藤喜商店提供)
 床の間の意匠は、主人または大工の見せどころ。松の床板は奥行き約三尺(九十センチ)あり、今では得ることのできない材。床柱に松皮付丸太、落掛(おとしがけ)に赤杉、床框(とこがまち)に黒檀(こくたん)、脇床の床板に欅(けやき)。そして紋竹、北山杉、鉄刀木(たがやさん)などさまざまな材種を使っているのに、すっきりとした室礼に、時を忘れるような安らぎを感じます。
 この界わいは、千年前から六道参りの参拝道として栄えました。隣家の榊原神具店では、神具にかかせない木曽檜の天井があり、向かいの足立顔料店では、弁柄の朱色が鮮やかに。町家それぞれの個性を表現しつつ、京の町並みを形成しているのです。