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近江の蔵元に学ぶ 杉の桶と寒さが育む良い酒

高さ約百六十センチの杉桶。つややかな飴色は柿渋を塗ってあるから。ちょうど発酵の最盛期。蓋を開けると、桶口まで泡が立ち上がっていた(高島市の上原酒造)
 雪を降らせそうな傘雲が山の頂上を隠し、冬の近江はシンと澄んでいました。一度は見てみたいと願っていた酒造り。滋賀県高島市にある上原酒造を訪ねました。
 文久二年創業の昔ながらの木桶(おけ)による酒造りにこだわり「いてつくような寒さが良い酒を育(はぐく)む」そうです。まず仕込みをする木桶の大きさが圧巻です。高さ約百六十センチ、幅約百二十センチの杉の桶で、節のない四−五寸幅の板をひとつひとつつなぎ、竹の箍(たが)が締められていました。
 梯子(はしご)ももちろん、昔の桶など古材から作られたもの。見せていただいた時は、ちょうど発酵の最盛期で、桶口まで泡が立ち上って、ぷ〜んと甘い米の香りの中に、かすかな杉の香りを感じました。
 全国的にも木桶仕込みをされる蔵元は少なく、この冬には二回仕込まれるそうです。杉蓋(ぶた)は半分ずつ開けられる戸板のようになっており、持ち上げさせてもらいましたが、結構取っ手も大きくて、ずっしりと重たいものでした。お酒の管理の大変さを実感しました。
 桶が飴(あめ)色につややかなのは、お酒のせいもあるでしょうが、実は柿渋の色。真夏に塗った後、乾燥するとすき間だらけになるそうです。十月ごろに十キロリットルもの井戸水を中に張って杉を膨らませ、十日間ほど熱湯を入れて蓋をし、湯気を利用して蒸らせては、たわしとササラで洗い込むことを繰り返します。殺菌効果もありますが、酒は米の持つコクと甘さが大事なので、杉の香りが付きすぎないように配慮されているのです
杉桶の大きな杉蓋(高島市の上原酒造)
杉玉のさがった上原酒造の店構え(高島市の上原酒造)
 室温三十度と蒸し暑い麹室(こうじむろ)の中には、「箱」と呼ばれる五十センチ角の杉箱が重ねられ、蒸した米に種麹をかけて麹を完成させます。杉箱でないと水分の調節がうまくいかず、箱と箱の間には杉の桟(さん)を入れるのですが、その桟の大きさを変えることで、細かく温度、湿度、水分の調節ができるのだそうです。
 「桶や箱、麹を砕くぶんじなどの木の道具が、酒を生かしてくれる。いいお酒が作りたいと思ったら、道具も手作りのものが、より深みと風味を与えてくれるんじゃないかな」と上原績専務。酒造りに息づく杉の生命力、大切な道具として人と共栄していく木の姿を見て、素朴だけど、とても尊いものを感じました。(銘木業見習い)