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京唐紙に学ぶ 代々継承された文様の美

板木の文様は、かなり深く彫られている(京都市左京区修学院・唐長)
 一枚の板木(はんぎ)から生まれた洗練された文様の美しさ、色彩、手漉(す)き和紙の風合い、キラ(雲母)と呼ばれる鉱物の輝き−京唐紙は、何度眺めても飽きることがありません。
 すべての文様は、唐長さんの江戸時代から続く約六百五十枚の板木からなるものです。手にとって見せていただくと、文様の一つ一つが深く彫られ、まるで盛り上がっている突起のよう。彫り直しなどせず、長い年月を代々継承された文様の見事さに驚きました。
 春らしい梅と桜の文様は、板木の裏に「文政六年 十二月吉日 吹よせ 唐紙屋長右衛門」とあり、唐長という名の由来がわかります。実際、目の前で、その板木で唐紙を作っていただくと、板木に絵の具をつけ、和紙をのせ、やさしく手で撫(な)でるように見えました。「唐紙づくりは和紙に模様をこするのではなく、移していくんです。絵の具の載り方やその日の気温などを考えて、手技でコントロールする均一感が大事なんです」と千田聖二さん(37)。
 江戸時代の板木のサイズは四十七センチ×二十八センチ。十二枚で一枚の襖(ふすま)紙ができます。明治時代になると四十七センチ×三十五センチと大きくなり、十枚で襖紙一枚が完成します。ですから、同じ調子で作らないと襖紙はいびつなものになってしまいます。
 板木の材は、すべて朴(ほお)の木。灰緑色を帯びた広葉樹で、木質は柔らかいのですが、耐水性があります。鰻(うなぎ)屋が朴のまな板を使うのは、目打ちをしても、弾力があるから元に戻る−と言い伝えがあり、朴は、唐紙作りの後の磨耗(まもう)が少なかったのではと推察しました。
板木に絵の具をつけてこするのではなく、和紙にそっと模様を移してゆくように、唐紙を作る(京都市左京区修学院・唐長)
桐、桜、菊市松、天平大雲などの板木(京都市左京区修学院・唐長)
 朴は、杢(もく)目の冬目と夏目の違いがはっきり出ないという点も、繊細な文様の邪魔にならなかったのでしょう。明かりの少ない時代に色絵の具を大切に使うには、土台になる板木に濃い色があれば、より鮮やかに映え、貴重な絵の具を無駄にせずに済んだのではないでしょうか。百年以上生き抜く一枚の板木は、さまざまなエピソードを物語り、改めて京唐紙のすごさを実感しました。