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駒井家住宅に学ぶ 自然の恵みを生かす

駒井卓・静江夫妻(駒井家所蔵)
 「家が続々建って花畑が減じても、今のところではなお飽くばかりの田園味がのこっておる。(中略)それだからどこへ旅しても北白川に帰らねば落ち着かぬ」(『昭和四年九月十日付、大阪朝日新聞』)とは、京都帝国大学理学部教授、駒井卓博士の記述です。彼が、そこまで愛(いと)おしむ北白川の我(わ)が家こそ、近代の一般住宅における代表的な洋風建築「駒井家住宅」(京都市指定有形文化財・財団法人日本ナショナルトラスト保護資産)なのです。
 玄関を一歩入れば、光差し込むスパニッシュを基調とした半円アーチのある窓、そして緩やかな階段。日本人にとって、この滑らかな曲線を描く階段は、未知のデザインであり、新しい様式だったと思います。この木造階段の醸し出す色艶(つや)、光を帯びた立体感、そして階高を低くする工夫など、恵みの居場所をつくると言われた米国人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計です。
玄関を一歩入れば、緩やかな階段が2階へと誘う
(上)ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した駒井家住宅。円熟期に手がけられた昭和初期の代表的な住宅建築(京都市左京区北白川)
(下)モダンな洋館内の和室には、さまざまな工夫がこらされている
 幾つかのヴォーリスの建築を拝見すると、共通して「太陽、月、水」という自然の恩恵を建築に生かしているように感じます。昭和二(一九二七)年、当時花畑ばかりの北白川に比叡山と大文字山を望めるよう建てられた駒井家も例外ではないでしょう。駒井博士の書斎は、西陽(にしび)の当たる二階の西部屋。普通ならば書籍が日焼けすると嫌いますが、疏水のせせらぎ、田んぼの向こうに見えた京都帝国大学、その光景は借景のごとく博士の書斎に溶け込んでいたに違いありません。
 家の材料は杉、赤松、楢、ラワンなど取り合わせてある上に、和室では、入り口にコートフックがあったり、障子を開ければ洋館の窓、畳下に掘りごたつが隠されていたりと、新しい西洋文化が特出するのでなく、本来の和の暮らしが溶け合う現場であることが実際に感じられます。施主の住宅観を大切にしたヴォーリスの建築は、太陽の降り注ぐ、自然とともに生きる家こそが、本当の健康的な住まいだということを改めて教えているのだと思います。 (銘木業見習)