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納涼床に学ぶ 五感で味わうご馳走

(右)かつては梅雨の晴れ間に一斉に、納涼床を準備するつち音が響いた(1979年6月)
(左)夕闇に浮かぶ納涼床
 京の夏の風物詩は、五月から始まる鴨川納涼床。二条から五条までの鴨川の西側(右岸)に分流した契川(みそそぎがわ)に九十二軒の店舗が納涼床を設置しています。
 歴史は古く、安土桃山時代、出雲阿国の歌舞伎芝居小屋に合わせて仮設の茶屋が置かれ、また裕福な商人が河原に宴席を設け、遠来の客をもてなしたりしていました。旧暦の六月七日から十四日の祇園会には、川で神輿(みこし)が禊(みそぎ)をするのを見物客が訪れるため、中洲に多くの床机が出て、物売りなどが賑(にぎ)わいを見せていました。近世初期には、持ち運びのできる床机形式となり、寛文年間(一六六一−七二)には両岸に石積みの護岸ができたため高床式となります。大正・昭和の治水工事により、両岸にあった床が、現在の契川にある右岸のみの形になりました。
 「桜が散ったら、また床を準備せなあかんなぁと毎年、せわしないことです」と、大正十(一九二一)年創業の鳥初鴨川(京都市下京区木屋町通仏光寺下ル)の主人、初田保(69)さん。昭和三十年に初代が作った床の形を守り続けて、木造の木組みにこだわっています。
 床の土台は、総檜(ひのき)造り。支えとなる柱は五寸(約十五センチ)角、桁(けた)は縦八寸(約二十四センチ)横四寸(約十二センチ)と頑丈で、十五−二十年毎(ごと)に交換するため檜の良材を常に確保されています。また、床組みは、毎年四月末のハレの日を選び、一日がかりで組み上げられ、お客さまがくつろぐ床のお座敷部分と欄干(手すり)をお店の全員で水と砂で磨き、檜本来の質感を取り戻すそうです。
 実際に床を触ってみると、冬目の木目がうっすらと浮き上がり、心を落ち着かせてくれます。この床も芯に近い赤身のみで作られているため、虫食い一つない強さを教えてくれます。あちらこちら歩けば、板と板が鳴り響き、その揺れさえ心地よく感じます。
しっかりとした木組みが納涼床を支える(京都市下京区・鳥初鴨川)
むしろを敷いて、今日も納涼床の準備が始まる
 「床組みには費用もかかりますが、代々こだわってきた本来の床の姿、歴史ある木組みの姿を伝えていきたい。」と、ご主人の後を担う尾崎敦彦さん(42)。床から見る景色は比叡山から大文字山、東山を結ぶおおらかな山の曲線と夏に移りゆく新緑から緑への色の変化、鴨川のせせらぎ、そして床の木組みのさりげない響き、まさにここにしかない、この時しか味わえない景色を堪能(たんのう)できます。
 京都ならではの五感で味わうご馳走(ちそう)こそ、床の醍醐味(だいごみ)かも知れません。