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比叡山延暦寺に学ぶ 地中に水音 仏が宿る水源林

 凛(りん)とした杉、檜(ひのき)が立ち並び、比叡山に向かう山道やその空気さえ霊験あらたかに感じます。
 比叡山延暦寺は、延暦七(七八八)年、伝教大師(最澄)によって開かれた天台宗総本山。古来は都の鬼門を守る鎮護国家の霊山と仰がれ、千二百年の歴史の中で山岳仏教の霊場として勉学、修行を重んじ、約千七百ヘクタールの森林とともにある、日本屈指の宗教と歴史の山と誇っています。平成六(一九九四)年には、「古都京都の文化財」の一環としてユネスコの世界文化遺産に登録されました。
 幼い頃(ころ)から祖父によく連れられた比叡山、その森林の凄(すご)さにいつも圧倒されていましたが、今回延暦寺管理部の誉田玄光さんと小鴨覚俊さんのご案内で、その実質を知ることとなりました。
 まず、比叡山の地質ですが、スポンジのような働きをして、大雨の時は地下に水を含み、乾燥時にはじわじわと湿らせる保水機能を持っており、この水脈と湧(わ)き水のおかげで、標高差四百メートル、一日約三百トンを汲(く)み上げています。森林の形態もほとんどが杉、檜であり、「広葉樹の森こそ水源は潤う」という説に一石を投じ、地質を考えた健全な森林こそが水源林になることを証明していると思います。
 また、延暦寺の管理部という存在です。全国的にもお坊さん自らが、山の生態と向き合い森林維持に関(かか)わるのは比叡山と高野山が大変歴史が古いと伺います。織田信長の焼き討(う)ち以降、樹齢四百年の杉や森林を守り、山上の諸堂周辺の境内林は切らず、境外林は百年、千年単位の山林維持を考えて山林を伐採、造林しています。
【左】「比叡山の境外林の林業は、常に現代の共生とは何かを問う哲学のよう」と語る延暦寺管理部の誉田玄光さん(右)と小鴨覚俊さん(同寺阿弥陀堂前)
【右】琵琶湖を見下ろす山上には、寺の用材を考え植林事業が進められている
100年、1000年単位の山林維持を考える比叡山。光差し込む杉の大樹は樹齢300年という。地中を流れる水の音さえ響くようだ(比叡山延暦寺弁慶水の周辺)
 修行中の弁慶が汲んでいたという弁慶水は、現在でも豊富な水量を誇っていますが、その横には樹齢三百年の杉の大樹がそびえ立っています。
 耳を澄ませば、地中を流れる水の音が聞こえ、川無き山上の摩訶(まか)不思議さを感じます。
 我(わ)が家にある叡南覚範大僧正の書に「渓声廣長舌 山色清淨心」(蘇軾、宋時代の詩人)とあり、その意は「渓流の清い流れの音は仏の説法であり、山の姿はそのまま仏の姿である」。まさに京都と滋賀の水源林である比叡山は、生命の源を教える仏が宿っていると確信しました。