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床の間に学ぶ さりげない木 組み合わせの妙

【上】気品のある取り合わせの「真の床の間」(京都市上京区・裏千家学園)
【下】行の床の間。虫喰いを景色にした床框などがシンプルな中にも表情を添える
 「中川さんは、どこの床の間が印象に残っていますか?」と、よく質問されます。見どころ多い床の間が数々ある中で、必ず思い出すのが、お茶人を養成する専門学校「裏千家学園」の床の間。格の違う「真・行・草」の床の間です。
 もう十年以上前の話、お茶の心得もない私が、この学園内で待ち合わせをしました。玄関から見える茶室の奥に赤い丸太がやや暗めの照明に映え、とても幻想的に見えました。六つも連なる茶室は、すべて趣が違い、勝手に夢中で見学していると、「何してるんや!」と、かすれた大声。驚いて謝りながら、「人が絶えず使用しているのに、品のある不思議な空間だ」と必死で釈明しました。後日、手元に『自慢できる茶室をつくるために』という本が届き、贈り主は当時、裏千家のお茶室を管理される営繕部長、根岸照彦先生だとわかりました。
 久しぶりにお茶室を訪ねると、「真の床の間」には床柱に北山杉天然絞丸太、呂色妹大面取框(ろいろうるみだいめんとりかまち)、桐(きり)の落掛(おとしがけ)と書院の付いた気品のある取り合わせです。「行の床の間」には赤松皮付丸太、古材で赤松に虫喰(く)い跡を景色にした床框、神代杉の落掛。そして網代(あじろ)の悠大(ゆうだい)さを感じさせる「草の床の間」には、洒落(しゃれ)木の北山杉のジン(夏目が削(そ)ぎ落ちた堅い芯(しん)材の丸太)、曲がりのある百日紅(さるすべり)落掛、幅の広い欅(けやき)の地板を蹴込(けこ)み床(どこ)として誂(あつら)えてあります。
草の床の間。曲がりのある百日紅の落掛や網代天井が遊び心を感じさせる
床柱と床框、落掛の組み合わせを考える筆者(京都市中京区・千本銘木商会)
 修行前に伺った時、「本床の基本は床柱、床框、落掛、畳敷き。実用を考えて取り合わせるのは何千、何万と板や丸太を見いや。自慢するのではなく、自慢できる取り合わせやで」と、かすれた大声で叱咤(しった)していただきました。残念ながら、根岸先生は誉(ほ)めていただくこと無いまま先立たれましたが、先生の御遺志を継いで、営繕担当の中西哲也さん(39)は、「やはり茶室の床の間は、さりげない中に、木の取り合わせと数寄屋建築の技術の妙を大切にしたい」と言います。
 茶室の床の間の基本を知らず知らずのうちに教えられた床の間。お茶を通して心に和む、そんな自然なひとときを作り出す床の間を忘れないように心掛けたいと思います。