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[20]モノの使われ方から人を知る

立命館大情報理工学部准教授 村尾和哉氏
机の脚に搭載した荷重センサで4本の脚にかかる力の分布をグラフ化して解析、誰が何をしているかを推定

 IoT(アイ・オー・ティー)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。この言葉はInternet of Thingsの頭文字を取ったもので「モノのインターネット」とも呼ばれています。身の回りの様々なモノがインターネットに接続されて情報をやりとりする仕組みのことです。この数年でテレビや新聞などで大きく扱われている言葉です。

 では、ユビキタスという言葉はどうでしょうか? 少し古いイメージをもたれる読者もいるかと思います。ユビキタスという言葉は「遍在」(いつでもどこでも存在すること)を意味します。もともとは宗教的概念であり、神はいつでもどこでも見ているという意味があります。ユビキタスが科学技術の意味を含み始めたのは、米国パロアルト研究所のマーク・ワイザー博士が1990年頃に、コンピュータやネットワークをいつでもどこでも利用できる社会をユビキタスという言葉で表現したことが始まりです。

 ユビキタスもIoTも身の回りのモノにコンピュータが搭載されて情報をやり取りし、便利なサービスを提供するものであり、本質的には同じです。ユビキタスがIoTとして再び注目された要因は、当時との環境の違いにあります。ひとつは、小型の汎用ハードウェアが安価で容易に入手可能で、機能を容易にプログラムできるソフトウェアが無料で提供されるようになったことです。もうひとつの要因は通信技術の進歩です。移動体端末用の通信は急速に発達しました。例えば、SIMカードと呼ばれる電話番号が記録されたカードをIoTデバイスに挿入すれば、月々数百円で常時、携帯電話と同様の通信エリア内であればどこでもデータのやり取りができます。例えば、温度センサを搭載したIoTデバイスを畑に置いて、温度の値を送信し続け、家から畑を監視するようなシステムは専門家ではない個人でも簡単に作ることができます。

ユビキタスからIoTへ

 筆者らの研究グループでは、身の回りのさまざまなモノに小型のセンサが搭載される未来を見据えて、人と環境が機械を介して対話し、生活を豊かにする技術の研究を推進しています。図はそのひとつで、机の脚に荷重センサを搭載し、4本の脚にかかる力の分布をグラフ化して解析することで、誰が何をしているかを推定する技術です。肘をつきながら食事をしていると注意したり、勉強を何時間しているかを自動的に記録できます。このほかには、トイレットペーパーの芯に角速度センサを搭載し、トイレットペーパーの巻取り方からトイレ利用者や使用した紙の量を推定する技術も研究しています。尿や便から健康情報を取得するトイレとの併用を想定しており、健康情報を個人ごとに自動分類して蓄積することができます。

 このようなIoTですが、解決すべき問題もあります。無線接続する端末が増大すると信号が干渉して通信障害が発生します。電源確保も問題です。容易にデバイスを設置できるため、管理されなくなったデバイスが悪用されるというセキュリティの問題や、利用者が想定していないデータを採取されるというプライバシーの問題もあります。このような問題に対しても研究が行われており、例えば電源に対して太陽光や電磁波から発電するエナジーハーベスティングという技術や無線で電力を伝送する技術が研究されています。

 現状はIoTデバイスを置くだけで何でも自動的にやってくれるという段階ではなく、センサデータを取得して表示したり、あらかじめ決められた値を超えると警告を出すなどの単純な処理しか行えません。将来的には人工知能やロボット技術の発展とともにIoTデバイスが勝手に異常を検出し、移動型ロボットを放って対処するようになるでしょう。

むらお・かずや

 1983年生まれ。2010年大阪大学大学院情報科学研究科博士課程後期課程修了。博士(情報科学)。日本学術振興会特別研究員、神戸大学助教、立命館大学情報理工学部助教を経て、17年より同准教授。

【2018年11月28日掲載】