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[16]実世界指向インターフェース

立命館大情報理工学部教授 木村朝子氏
データがつかめるピンセット型デバイス。手応えを感じる反力機構が内蔵されている
データがつかめるピンセット型デバイス。手応えを感じる反力機構が内蔵されている

 一昔前、パソコンは使いにくいものの代表的存在であったのに、今やそのほとんどのことがスマートフォンの画面タッチだけで実行できるようになりました。2~3歳の幼児でもタブレット端末を簡単に操作します。ガラス面に触れた指を閉じたり開いたり、上下左右に動かすことは、人にとって自然な行為ゆえに覚えやすいのでしょう。

 こうした電子情報機器の操作法はユーザーインターフェース(UI)やヒューマンインターフェース(HI)と呼ばれ、長年の研究が実を結んだものです。その簡単な歴史を振り返り、近未来への発展形を探ることにしましょう。

 電子計算機が誕生して約70年になります。科学技術計算から事務処理にも使われるようになった大型計算機は、空調の効いた専用室に置かれていました。ワークステーションやパソコン(PC)と呼ばれるようになった小型計算機が、TV型ブラウン管とキーボードを従えて机上に乗るようになったのが約30年前、持ち運び可能な二つ折りのノートPCが定着してから約20年がたちました。

 当時も今も、画面に絵文字のアイコンが並び、マウスでそれをクリックするとウィンドウが開くスタイルが主流です。この種のUIは、WIMP(ウィンドウ・アイコン・メニュー・ポインティングデバイスの頭文字)型と呼ばれています。これを超えるより良いUIを求めて、世界中のHI研究者が脱WIMP型UIを探求してきました。手になじみやすい棒状や球状の操作デバイス、身ぶり手ぶりのジェスチャ操作、振動や温度で情報を伝える触力覚提示などがその事例です。前述のタブレット操作はその延長線上で生まれました。そして「アレクサ、○○を探して」と語りかければ、最新のAIスピーカーがお相手してくれるのも脱WIMP研究の成果なのです。

 私たちの研究室では、覚えやすい、使いやすい直観型インターフェースの研究開発を続けてきました。TOOLDEVICEは手に持って使う道具型の対話デバイスの総称で、個々は子供の頃から慣れ親しんだ道具の形をしています。絵筆、ピンセット、トンカチなどの種類があります。キーボードやマウスは用途を特定しない汎(はん)用デバイスですが、私たちの道具型デバイスは機能や用途が少し限られています。例えば、ピンセット型デバイスは(目に見えない)データを挟んで運ぶための道具です=写真上。この形状が、挟むという行為を直観的に想起させます。特殊メガネをかければデータの形が可視化され、データをつかむと手応えがある反力提示の機構も持たせました。

PCの四角い枠超え空間活用

前腕を活用した直観型インターフェース。メニューや結果が腕に重畳表示される
前腕を活用した直観型インターフェース。メニューや結果が腕に重畳表示される

 TOOLDEVICEは利用者の作業を円滑にする入力側の工夫ですが、操作対象や処理結果をPC画面から解放する表示側の工夫にも着手しています。何も持たない手や腕に映像投影して、メニューやボタンを表示するのはその一例です=同下。自分の身体を表示対象、操作対象とすることで、煩わしい機器を身に付けたり、PCの画面をのぞき込む面倒さから解放されます。片手や両手がふさがっている時の作業にも威力を発揮します。

 これらは、PCの四角い画面の呪縛から逃れ、利用者の目の前の実空間を活用する「実世界指向インターフェース」の事例です。最近のHI研究はさらに進化して、五体をフル活用、さらには人間の知覚や身体を拡張するUIの開発へと向かっています。腕が4本、指が6本、さらには腕が数メートル伸びるようなUIが大真面目に研究されています。最新のセンサー技術を利用して、ビルの向こうを千里眼透視したり、数十メートル先の特定の人物の声だけを聴き取ったりすることも可能になりつつあります。まるで怪物くんやスーパーヒーローになったかのような「人間機能の拡張」が、近未来に次々と登場することでしょう。

きむら・あさこ

 1972年生まれ。大阪大大学院基礎工学研究科博士前期課程修了。博士(工学)。ヒューマンインターフェース、複合現実感などの研究に従事。同大学助手、立命館大理工学部助教授、科学技術振興機構さきがけ研究員などを経て、2009年4月より立命館大情報理工学部准教授。現在、同教授。

【2018年07月25日掲載】