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(10)酒米

京都ブランド発信、一層磨き

 大きくて白い米粒は清らかな日本酒へと生まれ変わる。8月下旬に収穫した酒米・五百万石が神々しい。栽培農家の井上益孝さん(69)=京丹波町富田=は「削って酒を作るので、粒は大きくそろっていないとね」と自慢の米を紹介する。

 中心の白い部分は「心白(しんぱく)」と呼ばれ、デンプン質で軟らかい。酒は蒸した米に麹(こうじ)菌を混ぜる麹作りから始まる。心白が多いと菌糸が内部に入りやすい。米ぬかは雑味の原因となるため取り除く。4割以上を削って仕上げた酒を吟醸と呼ぶ。

今年収穫した大粒の五百万石を見る井上さん(京丹波町富田)
今年収穫した大粒の五百万石を見る井上さん(京丹波町富田)

「うま味」のある酒を

 栽培には苦労が絶えない。他の品種に比べて穂が出るのが早く、水田はスズメの大群に狙われやすい。爆音が出る機器を置いて追い払い、ようやく収穫にたどり着ける。

 井上さんは2014年から酒米の栽培を続ける。出荷先は同町本庄の酒造会社「長老」だ。杜氏(とうじ)で社長の寺井渉さん(49)から「地元産米で酒造りをしたい」と依頼を受けたのがきっかけだった。

 長老は府酒造組合連合会から酒米を仕入れている。しかし、府内産よりも、さらに詳細な産地指定が困難だったという。長老は井上さんの米で仕込んだ「オール京丹波」の純米吟醸酒を「丹(たん)」と名付けて発売している。

 寺井さんは「酒造りに使う地下水に合うのは地元の米。海外への輸出を、と良く言われるが、うま味があって地元の人が飲む酒を造っている」と語り、販売を同町周辺に限って地産地消を目指す。

京丹波町産の酒米で造った酒を酒蔵で紹介する寺井さん(同町本庄・酒造会社長老)
京丹波町産の酒米で造った酒を酒蔵で紹介する寺井さん(同町本庄・酒造会社長老)

「祝」生産量伸ばす

 五百万石は酒造好適米の中で、山田錦に続いて全国2位の生産量を誇る。京都では府が開発した品種「祝(いわい)」が生産量を伸ばし、昨年度は玄米で453トンにのぼる。

 祝は紆余(うよ)曲折を経た品種だ。1933(昭和8)年に府立農事試験場丹後分場(現在の府丹後農業研究所)で誕生したが、戦中・戦後の食糧難によって食用米の栽培が優先されてきた。祝の生産は低迷を続け、草丈が高く倒れやすいため、機械化に適さず、74年に栽培が途絶えてしまう。

 80年代後半のバブル期に「淡麗」「フルーティー」などと称される吟醸酒の志向が高まってくると、京都市の伏見酒造組合から「京都の米で独自の酒を」との声が上がるようになった。府が倒れにくい個体を選抜し、92年に栽培が復活した。

振興プロジェクト発足

 南丹市日吉町志和賀の米農家吉田直一さん(81)の水田には周囲のコシヒカリの収穫が終わる中、祝がすくすくと育っていた。10月の収穫を待つ。吉田さんは「単価は高いが、収量が少ない。それが難点。誰でもうまく作れる品種ではない。大きい穂が出るので見栄えが良く、心白がどうしたら多く出るのか、思案するおもしろさがある」と説明する。

 府とJA、酒造業界は振興プロジェクトを立ち上げ、京都に栽培を限定して祝の生産拡大に取り組んできた。伏見区の大手酒造会社の黄桜や月桂冠も祝を使用した酒を手がけている。

 京都市右京区京北周山町の羽田酒造は、酒蔵横で従業員が祝を育てている。栽培を通じて酒米を大切に扱う心を養うという。祝の6割を削る大吟醸「蒼光(そうこう)」は1・8リットルで1万円の高級酒だ。霜鳥健三醸造部長(64)は「心白が大きい祝を限界まで磨いて作ったお酒。甘みの中にも華やかな吟醸香が広がる。京都の酒として販売する上で、祝は大きなアピールになる」と語る。

 復活した祝や丹波の酒米は、京都ブランドの内外への発信に一層の磨きをかける。

酒蔵横で育つ酒米・祝の出来を確かめる羽田酒造の社員たち(京都市右京区京北周山町)
酒蔵横で育つ酒米・祝の出来を確かめる羽田酒造の社員たち(京都市右京区京北周山町)

【2018年09月16日掲載】