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韓載香氏 西陣織と在日韓国・朝鮮人

韓載香氏 ハン・ジェヒャン 1971年ソウル市生まれ。専門は日本現代経済史。京都大で岡田知弘教授らに師事。「パチンコ産業史」(名古屋大出版会)でサントリー学芸賞政治・経済部門受賞。


 今年、誕生140周年を迎えた上京区は、西陣織の産地としても知られる。西陣織には、在日韓国・朝鮮人が戦前から関わってきた。先人の研究で指摘されている。京都市の1937年調査によると、彼らの賃金は「最も低廉」で、コストを抑えたい日本人業者に歓迎された。彼らは京都の友禅染にも関わってきた。
 京都の繊維産業の特徴は、各工程を異なる業者が担う分業にある。在日韓国・朝鮮人は、就労経験を基に西陣織では織元、友禅染では蒸・水洗業に参入した。彼らはどのように特定工程に集中して参入し、企業活動を展開してきたのだろうか。
 自営業を始めるには資金、技術などが必要だが、分業の場合、乏しい元手の外国人でも参入しやすい。在日韓国・朝鮮人は、戦後の急成長する市場で自分たちのコミュニティーに蓄積された資源を結びつけ、ビロード業界に集中的に参入した。
 その後、激変する需要への対応を迫られる。新規技術の吸収で事業を続けることができたが、全てに対応できたわけではない。失敗やパチンコ業に転業した事例もある。
 一方、ビロードを手がけていたが「コリアンカラー」だとして業界では見向きもされなかった事業所が、日本人問屋からの市場情報を得て技術を習得し、生き残った。
 工場内で行われていた友禅染の蒸・水洗業は、1920年代の不況下で低工賃の専門業者に取って代わられた。その後、朝鮮人が積極的に参入。40年時点で彼らの独占状態となり、この流れは逆戻りしなかった。
 蒸・水洗の工程は、色の定着など品質に決定的に影響する。京都産の着物が高級品となる過程で、百貨店側の指摘で問題になったのがこの工程の重要さだ。高品質を実現するためには、日本人の染色業者から蒸・水洗業者に生地、染料、糊などの情報を的確に伝えなければならない。
 そのためには信頼関係が必要だ。適切な技術を施す独自のノウハウも求められる。友禅染には、在日韓国・朝鮮人コミュニティーという民族の境界線のなかに蓄積された技術があり、これを日本の技術に組み込む協業の仕組みが基盤となって伝統文化は維持されてきた。
 京都の繊維産業史は、民族コミュニティーが伝統技術に果たした役割を浮かび上がらせる。日本人業者との信頼関係による企業成長や、民族同士・異なる民族間における、対立や排除を表面化しない関係性という歴史事実も明らかになっている。
 これまで京都の繊維産業に多くの在日韓国・朝鮮人企業が関わってきた歴史は、実に多くのことを物語ってくれる。

(北海道大学経済学研究院准教授)

[京都新聞 2019年06月14日掲載]