京都新聞
 紙面特集

京都 日本画新展 2019
美術館 「えき」 KYOTO

大賞 山本真澄「人天」
脈動する若き俊英

 京に脈動する若き日本画の俊英たちの作品を集めた「京都 日本画新展2019」が25日、京都市下京区の美術館「えき」KYOTOで開幕する。10年続いた「日本画新展」を引き継ぎ、委嘱作家を決める推薦委員と審査委員を一新。京都府と京都市、京都商工会議所も共催に加わり、新たにスタートを切る。

 京都日本画の伝統を受け継ぎ、現代に生きる画家を支援するため、2008年に創設された「京都 日本画新展」(14年から続(しょく)「京都 日本画新展」)。今展から京滋を中心に関西の芸術系大学教授ら有力日本画家計7人を推薦委員に委任、京友禅の人間国宝森口邦彦さんをはじめ、美術館学芸員、評論家ら計6人を審査委員としたほか、府、市、商工会議所の各奨励賞を設けた。

 大賞に輝いた山本真澄さんをはじめ、20~40歳代の出品作家40人のうち半数以上が初出品という清新な顔ぶれ。推薦委員7人の新作などが、若手の作品を盛り立てる。

新しい才能を 生みだす 美術風土の厚み

講評・太田垣實
優秀賞 乾榮里子「琴高獺」

 「京都 日本画新展」、続(しょく)「京都 日本画新展」と10年、10回の開催の後に新たな装いで始まる今回の「京都 日本画新展」は、いくつかの新しい要素が加わった。ひとつは過去10年の推薦委員が一新され、京滋の美術大学のほか大阪、奈良の芸術大学・短期大学を加えた7大学で日本画を指導する教授陣7人が推薦委員となったこと。審査員も続「京都 日本画新展」から継続の1人を除いて新たな顔ぶれとなり、女性の審査員も2人にふえた。友禅で重要無形文化財保持者(人間国宝)の森口邦彦氏が、京都市立美術大学(現・芸術大学)時代に日本画を専攻していた経験などからメンバーに入り、審査に異分野からの視点が加わることにもなった。京都府、京都市、京都商工会議所が今回から共催に加わったことも新しい要素である。

 「京都 日本画新展2019」に出展されるのは推薦委員会の選考結果を経て制作を依頼された40作家の新作40点。推薦委員が一新されたこともあってか、出品作家のうち24人、6割が初めての出品者。推薦範囲の地域的な広がりや、近年の日本画をめざす新世代の多様化する創作姿勢を反映して新鮮さ、多彩さを印象づける作品がそろった。40作家の内訳は、女性作家が28人、男性作家が12人で女性作家が7割を占め、女性優位がいっそう進んだ。平均年齢は約30歳。従来よりも若返りがみられたのも今展の特色だ。

 出品作の審査は昨年11月に行われた。1回目は審査員6人が各自10票をもって票を入れた。2回目は3票以上を得た10点を対象に各審査員が5票もって選ぶという形で絞りこんでいった。票数だけで順位をつけるのではなく、作品に対する批評も加味して議論し、一度はずれた作品を復活させたケースもあった。4回の投票の結果残った作品は「琴高獺(きんこうかわうそ)」「労(ねぎら)いの雨」「夢の如くⅨ」「しあわせのひと」「流麗」「人天」の6点。入賞作品数と同じ数になった段階で、大賞、優秀賞などを選ぶ作品の差が小さく甲乙つけがたいなどの意見もあったが、最終的に各自3票をもって投じた結果、「人天」が5票、「琴高獺」と「夢の如くⅨ」が4票、以下「労いの雨」「しあわせのひと」「流麗」の順になり、かなりの論議を尽くした末に総意として大賞に「人天」を選び、優秀賞2点、奨励賞3点を決定した。この段階で初めて作家名や年齢などが示され、大賞、優秀賞3人はすべて女性作家、30代が2人、20代が1人ということもわかった。

優秀賞 顧洛水「夢の如くⅨ」

 大賞の山本真澄「人天」は人のようで人ではない神秘的なまなざしの子供が座り、かたわらのオナガドリの尾羽がはうように伸びる方向をまっすぐにみつめている。背後には4人の子供の立ち姿が下半身だけ描かれている不思議な構図。題名が物語るように人間界でも天上界でもなく、あるいはそれらが融合したような奇妙な光景の描写が表現のオリジナリティーを印象づけた。優秀賞の顧洛水「夢の如くⅨ」は月夜の植物群が魚のようなメタファーをつくりながらしたたり落ち、下方には流水がうねるような動感をみせる。画面の中空にあおむけの裸婦を描いた夢想的な絵画。両腕を上に上げ、天から落下しているようにも浮かび上がっているようにも見える不思議な感覚だ。植物や黒髪、流れの曲線描写は19世紀末のアール・ヌーヴォー的なロマンの趣がある。もう一点の優秀賞、乾榮里子の「琴高獺」はカワウソがコイの背に乗って琳派的な装飾感覚をみせる波間を飛び上がっていくような光景を描く。題名から中国の周の時代の仙人で琴の名手で鯉を自由にあやつって現れたという琴高仙人にアイデアを得ており、室町時代後期の画僧、雪村の「琴高仙人」図などを参照する形で描いたことは察しがつく。仙人をカワウソに置き換えるパロディー的な表現に安易さも潜むが、絹本に描いた実験性や、琳派や狩野派の古典的技法などを学んで、今日的な絵画表現を試みる姿勢にはひきつけられるものがある。

 これらの受賞作に共通して見て取れるのは、画空間に織り込まれた時空や次元の転位、交差、相対といった要素である。「人天」の人間界と天上界の奇妙な間合い、「夢の如くⅨ」の夢と現実、意識と無意識下との距離感、「琴高獺」には古典と現代との歴史的な変遷や転移を垣間見ることができる。さらに奨励賞・京都府知事賞の佐竹龍蔵「しあわせのひと」の顔が一見してデジタル処理画像のように見えながら実は細かい色片を点描的なタッチで重ねて生み出していることにも、デジタル技術と手わざの描画という現代の対極的な次元が等値している。

思えば「京都 日本画新展」の再々出発の第1回は平成の最後の年であり、新しい元号に変わる年明けに開催となる。ひとつの時代から新たな時代への変わり目に開かれる展覧会の出品作は、終わりと始まりという転換期の時代の空気と、ちょうど平成の30年と同じ平均年齢30歳の出品作家たちの制作意識とが、期せずしてか、あるいは無意識のうちにか、さまざまにシンクロ(共振)していることも興味深かった。

 大賞、優秀賞の3人がいずれも初出品での受賞というフレッシュな話題性に加えて、派手さや奇をてらうような作品づくりより、逆に少し抑えたような底堅い意志で自らの信じる創作を前に進めるような作品が多くみられたことは、今後の「京都 日本画新展」の豊かな展開につながるであろうと期待を抱いた。いつの時代も新しい才能が生まれ出る京都の美術風土の厚みをあらためて思う。(美術評論家)


奨励賞・京都市長賞
北島文人「労いの雨」
奨励賞・京都府知事賞
佐竹龍蔵「しあわせのひと」
奨励賞・京都商工会議所会頭賞
高田凱月「流麗」
坪井裕理奈「双鶴」
谷内春子「‘山’をめぐる思考」
雲丹亀利彦「時の流れ」
石股昭「葉々譜」
菅原健彦「臥龍の松」
川嶋渉「波の象」
大沼憲昭「雲龍梅」
西久松吉雄「壁」
小熊香奈子「くらし」
監物紗羅「空と地面の間の話」
田口涼一「Sound of Silver」
村居正之「燈」
大西健太「作戦前夜」
石本丸恵「継ぐ」
白川奈央子「葉陰」
  ■出品作家■
青木香織  石本丸恵
乾榮里子  岩田朋恵
大西健太  小熊香奈子
奥村絵美  開藤菜々子
梶浦隼矢  河野雄大
北島文人  監物紗羅
顧洛水   幸山ひかり
小谷光   小山大地
佐竹龍蔵  清水葉月
白川奈央子 杉木智美
鈴木佑依  諏訪温子
高田凱月  田口涼一
田中克典  田中翔子
谷内春子  坪井裕理奈
寺脇さやか 中村美希
西川紘子  橋爪ちなつ
濱田卓也  濱谷綾菜
平尾嘉宏  平田裕子
堀川愛依  眞鍋享子
森中歩   山本真澄
■推薦委員■
 石股昭(奈良芸術短期大教授)
 雲丹亀利彦(京都精華大教授)
 大沼憲昭(嵯峨美術大教授)
 川嶋渉(京都市立芸術大教授)
 菅原健彦(京都造形芸術大教授)
 西久松吉雄(成安造形大名誉教授)
 村居正之(大阪芸術大教授)

■審査委員■
 太田垣實(美術評論家)
 國賀由美子(大谷大文学部教授)
 野地耕一郎(泉屋博古館分館長)
 畑智子(京都文化博物館学芸課長)
 森口邦彦(友禅作家、重要無形文化財保持者)
 山田諭(京都市美術館学芸課長)


(敬称略)

案内
■会     期1月25日(金)~2月4日(月) 会期中無休
■開 館 時 間午前10時~午後8時(最終日は午後5時まで)
入館は閉館30分前まで 入場無料
■会     場美術館「えき」KYOTO(京都市下京区、ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
■主     催JR西日本 京都新聞
■共     催京都府 京都市 京都商工会議所
■ギャラリートーク1月26日=大沼憲昭、西久松吉雄
▽27日=石股昭、村居正之
▽2月2日=川嶋渉、西久松吉雄
▽3日=雲丹亀利彦、菅原健彦
■問 い 合 わ せ京都新聞COM事業局事業部 075(255)9758
【2019年1月24日付京都新聞朝刊掲載】