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故梅棹氏の警鐘「観光公害」 市民の弊害、実態直視を

文化部 鈴木雅人
観光客でにぎわう週末の祇園・花見小路(京都市東山区)
観光客でにぎわう週末の祇園・花見小路(京都市東山区)

 半世紀前に、観光による市民生活の弊害を「観光公害で京都は荒廃し果てるのではないか」と批判した京都市出身の民族学者、故梅棹忠夫氏の著述を手掛かりに、訪日外国人ら観光客が急増した現在の京都市内で、住民の困惑ぶりを企画記事にまとめ、京都観光のあるべき姿を探った。五輪や万博を控え、行政が観光に傾倒した当時の状況も踏まえ、現代への示唆を得たいと考えたからだ。

 マナーを巡る訪日外国人との摩擦や常態化する交通機関やまちの混雑、渋滞といった市民生活への切実な影響と対策の方向性を、有識者に語ってもらった。その取材で、冒頭に必ず「観光公害」の言葉の解釈と印象を尋ねた。観光客急増で再び注目された言葉だけに、定義を明確にしようとした。

 今回、混雑や渋滞、さらに住民感情の悪化がもたらすトラブルは観光客にも被害があり、観光地のブランドを傷つけると複数の有識者が指摘した。「公害」という表現に対し「せっかく来てくれる観光客に失礼」という否定的な見方もあるが、必ずしも観光客を批判する意味ではない。観光振興を進める行政のバランス感覚や事業者の姿勢こそを問うものだ。

 国は公式には「観光公害」の言葉は使わず、同義に受け取れる「持続可能な観光」と言い続けている。ある国政政党は「観光公害」から「オーバーツーリズム」への言い換えを報道機関などに呼び掛けようとしたという。先の「失礼」との意見に配慮したとしても、弊害の切迫した状況をくみ取れない表現への言い換えには経済効果に前のめりな姿勢が透けて見える

 危機意識の薄さは京都市も同様だ。例えばホテル新設は今後も必要との立場を変えていない。しかしホテル建設が相次ぐ市中心部の山鉾町で、自治の担い手である住民はまちの規模を大きく上回る観光客の流入に不安を覚え、祇園祭の山建てのご神体を見下ろす大浴場計画に憤る。この姿を通し、京都を支える文化と精神性まで揺らぎかねない現状を記事で伝えた。

 京都の実態を見る限り、そろそろ弊害を直視すべきではないか。訪日外国人急増はわずか数年のことで、今後も増え続けるのかは有識者の見通しが分かれたが、「目先の利益で一気に都市を時代に合わせることはせず、長期的な視野で考えるべき」との意見は一致した。観光産業を将来的に育成する上でも弊害への早急な手だてが欠かせない。

 「観光客は、まちの人が機嫌ようやっている姿を垣間見させてもらうべきだ。主客転倒すれば観光対象としての文化の魅力もなくなる」。梅棹氏の「教え子」として長年交流があり、観光学が専門の武庫川女子大名誉教授、高田公理氏(74)の主張は、梅棹氏の「観光盛んにして文化滅ぶ」とした指摘と共通する。

 京都とその文化を愛し、行く末を懸念すればこそ、「早もうけ」と近視眼的な姿勢を厳しく批判した。「観光だけが辺り構わず暴走するのではなくて、市民の生活と調和を保ちながら、観光がどう発展していったらいいかを考えよう」。「知の巨人」の警鐘と叱咤(しった)は、今こそ響く。

[京都新聞 2019年3月27日掲載]

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